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精神科医は問診や心理検査、心理療法や薬物療法などによる治療を行うのが中心で、手術を担うことはありません。体力的な負担が軽い印象がある一方で、手術などを行わないことから年収が安いのではと思う人は少なくないのではないでしょうか。今回は、精神科医の平均年収や収入格差の理由、キャリアアップする方法などを紹介します。
診療科目ごとの勤務医と開業医の平均年収をまとめました。
勤務医年収は、独立行政法人労働政策研究・研修機構による「勤務医の就労実態と意識に関する調査」を用いました。開業医平均年収は、中央社会保険医療協議会の「第22回医療経済実態調査(令和元年実施)」の個人経営の一般診療所の診療科別の損益状況をもとにしています。
■科目別医師の平均年収
科目 |
勤務医平均年収 | 開業医平均年収 |
精神科 | 1,230.2万円 | 2,587.9万円 |
内科 | 1,247.4万円 | 2,424.0万円 |
整形外科 | 1,289.9万円 | 2,988.8万円 |
小児科 | 1,220.5万円 | 3,068.1万円 |
産婦人科 | 1,466.3万円 | 1,834.3万円 |
外科 | 1,374.2万円 | 1,977.4万円 |
参照元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構
参照元:医療経済実態調査
精神科医の年収の平均は勤務医は1,230.2万円、開業医は2,587.9万円です。2倍程度の差がありますが、勤務医は給与ベースであるのに対して、開業医は損益状況をもとにしているため、一概には比較できない面もあります。
精神科医の年収を他の診療科と比較すると、開業医はやや高めですが、勤務医は反対にやや低めです。この調査による医師の平均年収の1,261.1万円を少し下回っています。
勤務医の精神科医の年収分布は以下のようになっています。
主たる勤務先の年収 | 分布の割合(%) |
300万円未満 | 1.8 |
300万~500万円未満 | 4.1 |
500万~700万円未満 | 7.3 |
700万~1000万円未満 | 18.3 |
1000万~1500万円未満 | 33.0 |
1500万~2000万円未満 | 24.8 |
2000万円〜 | 10.6 |
精神科医の年収は1000万~1500万円未満がボリュームゾーンで、33%と約3割を占めています。また、次いで多いのが1500万~2000万円未満で24.8%を占め、2000万円以上が10%というのも他の診療科と比較して少なくありません。一方で、年収が300万円未満の医師もいることから、精神科は年収の格差が大きい診療科といえます。
精神科医の収入を左右する要因となるのは、資格の有無です。精神科には「精神科専門医」と「精神保健指定医」の資格がありますが、精神科は他の診療科から転科する医師が少なくなく、医療機関によっては必須とはされていません。
精神科専門医は日本精神神経学会が認定する学会専門医です。これに対して、精神保健指定医は精神保健福祉法第18条によって、厚生労働省が指定する法的な資格です。5年以上の臨床経験があり、そのうち3年以上の精神科の実務経験があることが条件で、精神保健指定医研修会へ参加した後、ケースレポートの提出と口頭試問を経て取得できます。
医師の中でも精神保健指定医のみが、法律にもとづいて措置入院や緊急措置入院、医療保護入院、応急入院などを判断する権限を持っています。また、精神保健医による診療は2割弱診療報酬が上乗せされます。そのため、精神保健指定医の資格を持ち、豊富な経験を積んでいると裏付けされることで、病院の収益に貢献できると判断され、給与に反映されているケースが多いです。
中でも「スーパー救急病棟(精神科救急入院料病棟)」は診療報酬の入院料が最上位の区分となっていることから、病院経営において重要な役割を果たします。スーパー救急病棟は急性期に特化した病棟で、精神保健指定医5名以上といった人員配置基準などが設けられているため、精神保健指定医の資格を活かすことができます。
一方で、病院ではなくクリニックに勤務することに関しては、精神保健指定医の資格は必須ではありません。精神保健指定医の資格がなくても勤務でき、院長として開業することも可能です。
現代は技術革新によって便利になった一方で、不眠や引きこもりに悩んだり、うつ病を発症したりするなど、精神疾患を患う人が増加傾向にあります。また、新型コロナウイルスの影響も、うつ病などの精神疾患の患者の増加要因となっています。しかし、精神科へのニーズが高まる一方で、病院によっては精神科医が不足している実情があります。
ニーズが高まる精神科医の業務内容と働き方についてみていきます。
精神科医は精神疾患が疑われる方に対して、聞き取りや会話、心理検査などによって診断を行い、認知行動療法や行動療法、認知療法などの心理療法、薬物療法といった治療を進めていく業務が中心です。対象となる疾患は、統合失調症のほか、うつ病やストレス障害、不眠症、摂食障害、パニック障害、不安障害、自閉症、認知症、さらにはアルコールや薬物の依存症など多岐にわたります。最近では、ストレスなどの精神的な原因から身体に不眠やめまい、倦怠感、腹痛などの症状が現れる心身症を対象とする心療内科も増えています。精神科医の業務は、手術などの特殊な手技を必要とする治療が少なく、病院勤務においても他科と比べて時間外勤務やオンコールによる呼び出しが少ないのが特徴です。
精神科医は民間病院の勤務医のほか、公的機関への勤務や企業の産業医といった働き方があるのが特徴です。また、個人クリニックを開設して開業医になるという選択肢もあります。精神科医の働き方ごとに特徴やメリット、デメリットについてまとめました。
精神疾患の患者のみを受け入れる精神専門病院では、外来診療や急性期を中心にした入院患者の管理を行います。精神病院には、日中の出入りが原則自由である開放病棟と、病棟の出入口は病院職員により開錠施錠が管理される閉鎖病棟があり、患者の状態にもよりますが、症状が激しくできるかぎり速やかに症状の軽減をはかりたい患者や、放置すれば自傷や浪費・人間関係の毀損など回復が困難な状況に陥ることが予測される患者をメインに対応します。
精神専門病院に限らず、一般病院でも精神保健指定医を取得するための症例を経験することは可能です。外来診療や急性期を中心にした入院患者の管理を行い、措置入院など強制入院のための対応を行うことも多いです。一般病院であれば他科先生と連携し、患者に睡眠障害やせん妄といった精神疾患が疑われる症状が現れた場合も、精神科医が診察を行います。
精神科医とってこれらの病院で働くことは自己研鑽の場として最適です。一方で、当直勤務が発生することや、外来診療と入院管理を行うことによる忙しさがあることがデメリットでもあります。
療養型病院は、急性期を過ぎて症状が安定した患者に対して、社会復帰を目指すために入院による治療を行う病院で、作業療法なども取り入れられることがあります。精神病院・一般病院よりも安定した病状の患者への対応となるため、ゆったりとした働き方ができることがメリットです。若手の先生からしたら、少し物足りなさを感じやすい点がデメリットかも知れません。
公的機関には、精神保健福祉法によって各都道府県への設置が義務付けられている精神保健福祉センターなどがあります。精神保健福祉センターでは、心の問題やアルコール依存症などで悩む人を対象にした精神保健福祉相談の対応、精神疾患の未治療や治療中断の患者に対するアウトリーチ支援、思春期や青年期の発達障害の患者のデイケアでの診療などを担当します。
公的機関は平日の日勤のみの勤務となるため、ワークライフバランスを重視した生活ができることがメリットです。また、公務員として安定した生活が送れますが、高水準の年収が期待できないというデメリットもあります。
企業の産業医には、医学的な見地に立って労働者の健康管理を行う役割があります。企業には事業場の規模に応じて産業医を選任する義務があり、産業医になるためには厚生労働省令が定める要件を満たすことが必要です。
産業医は職場の巡視、健康診断によって異常が発見された従業員への面談などのフォロー、従業員への保健指導、ストレスチェックの実施と高ストレス者との面談などを担うほか、安全衛生委員会への出席を求められることがあります。
産業医は企業の従業員と同様に日勤のみで残業がほぼなく、ワークライフバランスを重視できることがメリットです。一方で、従業員に対して直接治療できないもどかしさがあることがデメリットといえます。
クリニックは外来診療による心理療法や薬物療法が中心で、入院治療が必要な重篤な患者は精神科病院へ紹介します。介護施設と契約して、認知症の患者への往診を行うケースもあります。クリニックは当直勤務やオンコールが発生せず、ワークライフバランスを重視した働き方も可能なことがメリットです。また、精神科のクリニックの開業にあたっては、高額な医療機器の導入が必要なく、収益性が高い傾向があります。ただし、他科と同様に経営状況によっては閉院せざるを得ないリスクがあることがデメリットになります。
精神科医としてキャリアアップをしていくには、精神保健指定医の資格を取得することが大前提となります。また、転職や開業という選択肢もあります。それぞれの方法について紹介していきます。
精神保健指定医は精神科医療において、措置入院や医療保護入院、応急入院といった強制入院の措置をとるために必要な資格です。精神保健指定医を持っていることを採用条件とする精神科の医療機関もあります。また、診療報酬が高いスーパー救急病棟(精神科救急入院料病棟)の施設基準を満たすには、5名以上の精神保健指定医が必要なことからも、精神保健指定医のニーズは高くあります。収入面を重視したり、高度な医療に関わっていったりするには、精神保健指定医の資格は欠かせないといえます。
精神科専門医を取得するために指導医がいる病院に移る、高度な症例を扱える病院に行くなど、転職をすることでキャリアアップにつながる環境が得られることがあります。あるいは、豊富な臨床経験を積んでいる精神科医の場合は、開業することによって、収入アップが期待できます。
キャリアアップのために転職をした場合には転職先の医療機関選びが重要です。日々の診療に追われながら、転職先を探すのはかなりの労力が必要となります。転職先が決まるまでは周囲に転職活動をしていることを知られないようにするのが望ましいため、医師が転職活動をする際には転職エージェントを活用するのがおすすめです。
【医師ベストキャリア】は20年の実績を持つ、医師専門の転職エージェントです。国家資格のキャリアコンサルタントの有資格者も多数在籍していますので、キャリアプランをもとにした転職のサポートが受けられます。医師ベストキャリアを使って転職した先生の声はこちら。
精神科医は収入格差が大きいのが特徴です。精神保健指定医を取得して、臨床経験を積んでいくことがキャリアアップにつながっていきます。精神保健指定医や精神科専門医を取得できる環境にないケースや、資格を持っているにも関わらず相応の収入が得られていないケース、あるいは高度な臨床経験を積んでいきたいケースなどは、転職によるキャリアアップという選択肢を検討してみましょう。
生まれも育ちも関西!法学部卒業後、新入社員として入社いたしました。親族に医療関係者が多く、私自身も医療に貢献できるように日々精進しております。
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